歯の移植という選択肢〜手術編Ⅰ〜
こんにちは。
のだデンタルクリニック西荻窪院 院長の野田裕亮です。
前回は術前編として、
今回の歯牙移植の適応や治療計画についてお話ししました。
今回はいよいよ、実際の手術の流れについてご紹介していきます。
まず今回の症例を簡単に振り返ります。
患者さんは50代の女性で、
十数年前に歯を失った部位への移植を希望されました。
このような「欠損部への移植」は、
保険適用の条件を満たさないため自費診療となります。
術前の診断では、
欠損部のさらに奥にある親知らずが
・サイズ
・歯根の形態
ともに適しており、移植歯として使用できると判断しました。
また、事前準備として
・CTデータをもとにしたレプリカの作製
・再生療法の併用計画
を行い、手術当日を迎えています。
それでは、実際の手術の流れです。
まずは十分に麻酔を行った後、
移植するためのスペース(移植床)を作る工程から始まります。
歯肉を丁寧に切開し、
内部の骨が見える状態まで剥離します。

その後、専用のドリルを使用して
骨に穴を形成していきます。

最初の段階では、
予定している方向と深さが正確かどうかが非常に重要です。
一度ドリルで形成した後、
方向確認用の器具を挿入し、
「狙った位置に正しく形成できているか」
を慎重にチェックします。

問題がなければ、
さらに段階的にドリルを進めていき、
移植歯が適合する形に整えていきます。
ここで当院の特徴でもあるポイントが一つあります。
それは、
低速回転かつ無注水でのドリリングを選択していることです。
通常、インプラントの処置では
・高速回転
・注水下
で骨の切削を行うのが一般的です。
これは、
・ドリルのブレを防ぐ
・発熱による骨へのダメージを抑える
という目的があります。
骨は熱に弱く、
ダメージを受けると吸収が進み、
結合に悪影響を及ぼすためです。
一方で、歯牙移植では少し考え方が変わります。
移植する歯はインプラントのように
ミリ単位で完全に一致させる必要はなく、
ある程度の余裕(遊び)があっても
問題なく適応させることが可能です。
そのため当院では、あえて
低速回転・無注水での切削を選択することがあります。
その理由はシンプルで、
「自家骨を採取するため」です。
骨を削った際に出てくる細かな骨片は、
そのまま非常に優れた再生材料として利用できます。
いわゆる「骨補填材」と呼ばれるものですが、
これにはいくつかの重要な役割があります。
・骨を新しく作る力
・骨の形成を促す力
・骨ができるための足場となる力
こうした要素が、
移植した歯の安定や生着に大きく関わってきます。
人工の骨補填材も存在しますが、
すべての機能を兼ね備えているわけではありません。
その点、自分の体から採取した骨は、
生体親和性も高く、非常に有利な材料となります。
今回の症例でも、
再生療法としてエムドゲインを併用していますが、
それに加えて
自家骨を活用することで、より良い環境を整える
という考えで手術を行っています。
少し専門的なお話が多くなりましたが、
歯牙移植は「ただ歯を入れる治療」ではなく、
周囲の組織との調和や再生まで含めて考える
繊細な治療です。
続きは次回、
実際に歯を移植する工程についてお話しします。
歯を失ったとき、
選択肢は一つではありません。
少しでも多くの歯を残すために、
こうした治療があることを知っていただけたら嬉しいです。
あなたの歯が、1本でも多く残せますように。